VC PTN 2870485 BlogKenJr. 「火」
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作家志望であるかどうかあやしくなってきた作者が、広く世の中に認知してもらうためのあらゆる実験を行うための日記。また作家になるかどうかあやしくなってきた過程を随時報告していきます。
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「火」
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「火が出る。あれ?火が噴く?まあ、とにかく凄い恥ずかしかったってことですよ」

山田順二刑事が先輩刑事達に語っているところ、彼の肩を叩く者がいた。

「おい」

順二が振り返ると、そこには頭に白いものが混じるが、屈強な刑事が一人立っていた。

「おい、俺の前で火が出るなんてセリフ、吐くんじゃねえ」

「だ、だ、だ、大門警部!ち、違うんです。これは……」

「俺に言い訳するな!」

ピシャリと言い残して、大門は刑事達の前から去っていった。


その後姿を見ながら順二は出てもいない額の汗を拭うようなそぶりをする。

「ふー、びびったー。相変わらずの迫力ですね、大門警部は」

「お前も間が悪いなあ。あの人の前で火と言い訳は禁句だぜ」



大門は放火犯担当の刑事である。

勤続25年の大ベテランである彼は、ノンキャリアでいわゆる現場上がりの叩き上げであった。


「しかも、大さんが長年追ってる事件と同様の手口の放火が、今日の未明にまたあったらしいからな」

「ああ、だからピリピリしてるんですね」

順二は自分が尊敬するベテラン警部に嫌われているわけでは無いと知り、ほっとしたように言った。

その様子を見て苦笑しながら中堅の刑事が、

「それにしても長いよなあ、あの事件も。10年になるか?」

「15年だ」

と言いながら、再び順二の肩を叩く者がいた。

順二が再び振り返ると、そこには山さんこと山田厳刑事が立っていた。

「や、山さん」

順二は大門警部に相対するとき以上に緊張した顔を見せる。

「順二、こっちも事件だ。行くぞ」

「な、何です?」

「コロシだよ」

二人の山田刑事は揃って刑事部屋を飛び出て行った。








「ええ、そうなの。本当にいつまでも子供で」

電話相手に話しながら、悦子はテーブルの上でメモ帳に無数の落書きをしている。

「あら、そんなことないわよ。私は過保護だなんて思ったことないわ」
話を続ける間も落書きは止まらない。

落書きはどんどん細かく、筆圧はどんどん強くなる。

いつも電話をした後は、メモ帳の上から3、4枚目ぐらいまで落書きの跡が残ってしまう。

「ええ、それじゃあまたね」

話終えて電話を切る。

携帯電話の画面をみると、通話時間「2時間35分17秒」と表示されていた。

「あらあら、また喋り過ぎてしまったわ」

悦子は反省したように一人呟く。




悦子は悩んでいた。

彼女には夫と離婚してから女手一つで育ててきた一人息子がいた。

今は離れて暮らしているが、未だに母親に頼ってくるところがある。

悦子にはそれが嬉しくて、出来る限りのことはしてあげるのだが、パート先の同じ世代の母親に言わせるとかなり過保護であるらしい。

先程の電話の相手も同じぐらいの年の息子を持つ母親で、彼女の場合はその息子と同居しているのだが、お互いに干渉しあうことはほとんどないという。

「一緒に暮らしているからそんなことが言えるのだわ」

悦子は友達の言葉をそんな風に受け取っていた。

「離れて暮らしているのだもの、たまの頼みぐらい聞いてあげなくちゃ」


離れて暮らしてはいるが、電話はほぼ毎日かけていた。

息子からかかってくることもあるが、ほとんどは悦子の方からかける。

昨日も彼女の方から電話した。

昨日は悦子の誕生日だった。


息子の方からの「おめでとう」の電話を期待していたが、昼を少し回ったところでもう堪え切れずに、つい悦子の方からかけていた。

生憎、月末ということで仕事が忙しいらしい息子はそっけなく、「おめでとう」の言葉もなかった。





悦子は悩んでいた。

悦子には、たまらなくさびしい気持ちになると、放火をしてしまう癖があった。



悦子には幼い頃から火に異常な執着心があった。

マッチやろうそくに火をつけて遊ぶことはしょっちゅうで、よく親にしかられていた。



放火をするようになったのは、夫と離婚してからだった。


寂しさを紛らすものが、幼い頃からの火遊びの延長で放火にまでエスカレートしてしまった。

「本当に彼を愛していたのね」

悦子は自分の押さえ切れない衝動の強さによって、元夫への愛の深さに気付かされた。



その夫への強い愛と息子に対するそれとの二人分の愛情を、今は息子一人に向けている。

それ故に息子に突き放される寂しさは、より一層つらく感じるのであった。






「何で分かったんですかね?」

現場に向かう途中の車の中で、順二は山さんに尋ねる。

「何がだ?」

山さんは順二の顔を見ようともせず、ぶっきらぼうに聞き返す。

「いや、今朝未明に起きた放火が、何で大門警部が追ってる事件と同一犯らしいってすぐ分かったのかなって」

順二は言いながら首をくねくね捻らす。

山さんはそんな順二を横目でちらりと見ながら、

「ああ、それな。」

とめんどくさそうに言う。

「だって今朝の未明に起こったばかりでそんなに調べも進んでないですよね。なんだって同じ事件だって分かるんです?」


なおも唸りながら首を捻る順二をうっとうしく感じ、山さんは仕方なく説明しだす。

「あのな、大さんが追ってる事件には、ある一つの共通点があるんだよ」

「共通点?」

「ああ、それがあるから15年前の事件からずっと一つのヤマとして追いかけているんだ、あの人は」

山さんは相変わらず前を見据えながら話す。

同世代の仲間である大門刑事が、ずっと追い続けながら今なお報われない空しさを山さんも感じている、と順二は山さんの目を見て思う。

「共通点ってなんです?」

それでも順二は尋ねずにはいられなかった。

「この15年間でこの県下で起こった8件の放火事件。およそ2年に一回起こるそれらの放火事件は全て3人以上の家族が住む家が全焼し、その家族全員が焼死している」

「ぜ、全員が……」

順二は思わず息を呑む。

「そしてそれら8件を結ぶ本当の共通点とは、それらの現場全てに家族以外の身元不明の死体が一人混ざっているということだ。どういうことか分かるか?」

順二は事件の不可解さに何も答えることが出来なかった。


「それはこれらの事件がただの放火ではないことを示している。つまり放火が目的ではない連続殺人事件だということだ」

言い放った山さんは、その後はむっつり押し黙ったまま、視線だけは変わらず前を見続けていた。





「えーそれでは昨日の藤巻さんからの紹介です」

悦子がお昼の番組を見ていると、携帯電話が鳴る。

「はい、もしもし相沢です。ええ、はいそうですが。いえ、今は息子とは暮らしておりません。ええ、うちではそういうのはちょっと。はい、ええ、結構です。ええ、はい、どうも失礼します」

電話を切り、通話時間を見る。

「54秒」の表示を見て悦子はため息をつく。

「まったくしつこい勧誘だわ、1分も電話してきて」




悦子は悩んでいた。

彼女は決して好きで放火を起こすわけではなかった。

きっかけは15年前の夫との離婚だったが、彼女が寂しさを紛らすため以外の理由で放火したことがこれまでに8回あった。

「でも今考えると、あれも寂しいと感じたからかなあ」

悦子は一番最初の放火を思い起こしながら呟く。




15年前、初めて息子が彼女を家に連れてきた。

悦子は夫と別れ、その愛情の全てを息子に注ごうとしていた矢先のことだった。

しかし、そんな普通の母親の寂しさを感じている余裕はなかった。

息子が連れてきた彼女は、死んでいた。



息子の「月」に関する性癖を聞いたとき悦子は、誰にも言えるべくもない秘密を、息子が自分にだけ話してくれた嬉しさを感じる。

と同時に、息子が愛情の裏返しといえる殺意の衝動を向けるのが自分以外の女性であったことにたまらない寂しさも感じた。

そしてそんな複雑な思いの中、

「この死体、どうにかならないかな?」

と息子に頼られ、悦子は喜んで息子の殺人の始末に手を貸すのであった。

死体を始末すれば、息子がまた自分の下に帰ってきてくれる。

なにより、やはり究極に追い詰められたときには頼るのはこの母なのだと。

そんな思いで、悦子は死体を始末するために、関係ない家族を巻き添えにして放火をおこし、全てを焼いて消し去ろうとした。



そんなことをこれまで8回も行ってきたのだった。




「やっぱり過保護なのかなあ」

悦子は昨日のことを思い出していた。

息子は昼間電話したときはそっけなかったが、夜になって悦子の家に訪ねてきた。

また若い女性の死体を連れて。




「ふふ、私の場合は「火保護」ね」


悦子はテレビを見ながら一人つぶやくのだった。






END




「水」につづく



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【2007/01/30 22:41】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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作家を目指しながらも、日常に追われる日々を過ごす37歳。
名古屋生まれの、名古屋育ち、だが現在は関東在住。
作家に限らず、同じように自分の才能を世の中に送り出したいと考えている方たちと、交流がしたいです。
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