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「月末は嫌いだ」
相沢は悩んでいた。 締め日前は毎月、日が変わるまで残業して見積もりを作成しないと、他社への請求が間に合わない。 「あー進まねえー」 今日も朝の時点でバリ残(バリバリ残業の略。ものすごい残業の事。相沢の会社での俗語)が目に見えており、その事で憂鬱になっているのは確かだが、相沢が悩んでいる事はまた別だった。 「せっかくいい娘と知り合ったのに」 「おい、なんだよ?また新しい女か?」 思わず声に出して呟いていたらしく、隣の席の紅谷が突っ込みを入れてきた。 「まあね」 相沢はあえて否定したり、誤魔化すことはしなかった。 「でも、タイミングが悪いよ。月末のこのくそ忙しい時に知り合ってもさ。つかみが肝心なのに」 相沢は最近知り合った女性にかまってあげられない事に悩んでいた。 「贅沢な悩みだな。俺なんか出会う事自体滅多に無いのに」 紅谷は溜め息をつきながら言う。 「そうだけどさ」 やはり相沢は否定はしなかった。 「しょうがない。とっとと仕事終らすか」 相沢は仕方なく机に向かった。 「いや、もう昼だぜ」 紅谷が水をさす。 「マジかよ。一つも進まなかったよ!」 二人はそろって社員食堂に入った。 食堂のテレビには、いつものお昼の番組が流れていた。 「今晩雨だそうです!」 「そうですね!」 「それでは先週金曜日の山田さんからのご紹介……」 「今度の娘はどんなん?」 しょうが焼き定食の乗ったプレートを持って、席に着くなり紅谷が尋ねる。 彼等の会社の社員食堂は安くて味もよく、毎日込み合っている。 騒々しいために、会話の声量も自然と大きくなる。 「どんなんって普通だよ」 しかし相沢のトーンは変わらない。 「お前なあ、もうちょっと俺たちにもお目こぼしをくれてもいいんじゃない?いっつも一人で楽しみやがって!」 紅谷のテンションだけがどんどん上がっていく。 「なんだよ、お目こぼしって」 「だから!その娘を通じて合コンするとかさ。今までの女の子の友達を集めたら、けっこうな数になるだろうが。少しは分けてくれよ!」 必死に食い下がる紅谷を相沢は面白いものでも見るかのように薄笑いを浮かべながら言う。 「別に友達なんて知らないよ。いつもその娘だけとの付き合いだからさ」 「それにしてもコロコロ替えすぎなんだよ!取っ替えひっかえ!」 紅谷は興奮しながらも、食事は続けている。 口からしょうが焼きの玉ねぎをはみ出させながら喋り続けている。 「嫌な言い方するねえ」 相沢は喋る時には箸を休める。 口の中に物が有るときは喋らないように、幼い頃から躾られていた。 「新人の近下も言ってたぞ。相沢さん、また違う女の子と車に乗ってましたよって」 「わかった、わかった。考えておくよ」 相沢は観念したように言った。 「それじゃ、そろそろお友達の方を……」 「ええーっ!」 「ありがとうございます」 テレビには相変わらずの予定調和の会話が流れている。 「ああ、俺この女優好きだなあ。藤巻何だっけ?」 「愛じゃなかった?」 「ああ、そうそう。こういうタイプの娘がいいなあ」 「わかったって。聞いてみるよ」 乗り気ではないのをなるべく表情に出さないようにしながら相沢は言った。 「たのんまーす」 うまく言えたと思えなかった相沢だったが、紅谷の脳天気さにホッとしていた。 「ああ、だからね月末は忙しいの。ごめんね」 自分の席で相沢は、受話器を持ちながら頭を下げる。 隣で紅谷がにやつきながら、その様子を見ている。 「え、遅くなってもいいから会いたい?うん、そう。分かった、じゃあまた電話するよ」 「おーい。私用電話禁止だぞ!」 相沢が受話器を置くのを待ち構えるように紅谷が言う。 「紹介してくれるなら公用として認めてやるけどな」 「わかった、わかった」 今度は相沢も、あえて乗り気じゃないのを隠さなかった。 結局その日は、11時まで残業になった。 片付けを終え、地下駐車場に車を取りにいく。 暗い地下2階の一番隅が相沢の駐車位置だ。 自分の車に近づくと、助手席に女の子が座っているのを相沢は確認する。 「待っていてくれたんだね」 相沢は、仕事の疲れも吹っ飛んだ、と言わんばかりの満面の笑みを浮かべた。 駐車場を出た車は、すぐ近くの入り口から高速道路にのった。 「ちょっとドライブしよっか」 相沢が言うが女の子は答えない。 構わずアクセルを踏み込み、スピードを上げる。 月曜の深夜の高速は快調に流れていた。 「やっぱり怒っているのかい?ごめんよ、遅くなって」 それでも女の子は青ざめた顔を正面に向けたまま、相沢の言葉を無視している。 「何か顔色が悪いね。そうか、寒い中ずっと待っててくれたんだね」 相沢はエアコンのスイッチをひねり、風量を強くした。 吹き出し口からの暖かい風にあおられて、無言のままの女の子の長い髪が揺れる。 「そうだ、突然だけど、君の友達にさ。藤巻愛に似た子っていないかな?同僚のやつが、どうしても君の友達を紹介しろってうるさくてさ」 女の子は車の揺れにあわせるように首を振る。 「そっか。そんな子いないよね。まあ、俺も本気で君に紹介してもらおうなんて思っちゃいないさ」 相沢は悩んでいた。 満月の夜、黄金に輝く月を見てしまうと、彼はどうしても若い女性を殺したくなる衝動に駆られる。 その欲求がいつ頃から湧き上がってきたのか、彼も正確には覚えていない。 が、思春期を迎えたあたりから、それはあったように相沢は記憶している。 その衝動をはっきり意識し始めた当初は、今のように女性と二人きりになる機会はめったになかった。 しかし、今年で30歳になる彼が、たまたま満月の夜に女性と二人きりになることが、これまでに15回あった。 その数が多いのか少ないのか、相沢自身もよく分からなかったが、その時一緒にいた15人の女性は全て殺害していた。 全て扼殺であった。 彼は若い女性の首に性的執着心を持っていた。 急なカーブに進入し、車に大きな遠心力がかかる。 シートベルトをしていない女の子は、その力に押されるまま、相沢の方によりかかっていった。 「危ないよ」 優しい声で言いながらも、相沢はあえて女の子を押し戻そうとはせず、顔と同様に青白い彼女の首筋をそっと撫でた。 そこには、くっきりと指の痕が、赤く張り付くように残っていた。 ポツポツと水滴が、まるでフロントガラスから噴き出てきたように一面に広がっていく。 「降ってきたな」 相沢は呟きながら、ワイパーのスイッチを入れる。 見上げた空に、月は無かった。 その月の満月は昨晩だった。 END 「火」につづく |
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