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かいじょし(1)を読んでいない方はこちらへ
順二の連れてきたお手伝いさんは、二十歳を越えたか越えないかぐらいの、若く美しい女の子だった。 「メイドをしております、文香です。」 と丁寧に頭を下げる。 「今どき、メイドかね。」 と呆れる山さんに、 「やだなあ、今、流行ってるんですよ。メイド萌えなんて言って。」 「お前はだまっとれ!」 あわてて口をつぐむ順二。 「文香さん。あなたは住み込みで働いていらっしゃるんですかな?」 「はい。この家には私と旦那様の二人で住んでいます。私は主に、食事やお買い物、掃除、洗濯等を担当し、力の要る仕事や、旦那様の介護を尾藤さんにしていただいておりました。」 「なるほど。それでは昨晩のことを、詳しくお聞かせ願いますか。」
「はい。昨晩は、8時ころ尾藤さんと食事をした後、片付けをして、旦那様の部屋から食器を引き上げてきたのが8時半ごろだったと思います。それからしばらく食器を片付けながら、尾藤さんとお話をしていました。それで、尾藤さんが8時50分ぐらいに、旦那様の部屋に声をおかけになって、帰っていかれました。それから私は今朝の朝食の下ごしらえをして、その後10時からTVドラマを見て、11時過ぎにお風呂に入って、12時前には寝ました。」
「なるほど、それで昨晩誰かが秋山さんの部屋に入ってくるような物音は聞かなかったですか?」 「え、ええ。」 そこで、文香が少し言いよどんだのを、山さんは聞きのがさなかったが、そのまま質問を続けた。 「それで、今朝は?」 「はい、私は8時に目を覚ましまして、朝食の支度をしておりました。旦 那様はいつも9時に来る尾藤さんが起こして下さいましたので。今朝も9時頃みえた尾藤さんが、旦那様の部屋に入ってしばらくして大声で私を呼びました。急いで部屋に行くと、尾藤さんが旦那様を抱えて、警察に電話してくれと。」 「それであなたが電話をしたのですね?」 「いえ、私も気が動転しておろおろしていたので、結局尾藤さんが電話をしてくれました。」 「わかりました。それで、もう一度お尋ねしますが、昨晩誰かがこの家に侵入してきた物音を聞いてはいないのですね?」 「は、はい。」 「そうすると犯人は、物音も立てずに秋山さんを殺害したことになりますねえ。」 「は、はい。」 文香の声はだんだん小さくなっていく。 「警部。」 ここで、順二が口を挟む。 「何だ?」 「文香さんの言うとおり、この家には窓が割られるといったような、不審な侵入の形跡が見られません。」 「そうなのか?」 山さんが鑑識係の方を見ながら聞くと、彼も首を縦に振る。 「となると犯人はどうやってこの家に入ってきたんだ?文香さん、昨晩は戸締りはちゃんとしましたか?」 「ええ、もちろんです。ただ…」 「ただ何です?」 「実は、玄関の合鍵を隠している場所がありまして。」 「なんですって?何のために?」 「本来は尾藤さんが自由に入れるためのものなのですけど。」 「尾藤さんとあなた以外にその鍵のありかを知っているのは?」 「大作さんです。旦那様の息子さんですけど、最近になって出入りを許されましたので、鍵の場所を教えて差し上げました。」 「なるほど、他には?」 「後は江原さんです。」 「その人は?」 「江原さんは、旦那様の幼馴染で、会社の共同経営者でもあります。」 「なるほどね。それだけですか?」 山さんが更に聞くと、文香は少し考えた後で、 「ええ。あっ、でもあの人は…」 「いるのなら全て教えて下さい。関係のあるないは、我々が調べます。」 「ええ、でもその人は、もうだいぶ前からいらっしゃらないのですけ ど。その、千鶴さんといって、その、旦那様の…」 「愛人さんかね?」 「ええ。でも本当に何年もいらしてらっしゃらないので、関係ないと思います。」 「文香さん、それを調べるのが我々の仕事だと言ったはずです。」 山さんは念を押すように言ってから、 「では、それらの人々と、ああ大作さんに関しては、もう連絡が取れているので、残りの江原さんと千鶴さんに連絡はとれますか?」 「はい。」 「それではこちらに呼び出してもらえますか?そうですね、秋山氏が亡くなったことは伏せて、秋山氏が呼び出していると言っていただきましょう。」 「はい、わかりました。」 そう、頷いて文香は部屋を出て行く。 「鍵のほう、調べておいてもらえますか?」 山さんが頼むと、鑑識係も部屋を出て行った。 「どうもすっきりしない話し方だったな。」 どうやら文香のことを言っているらしいことが、順二にもわかった。 「確かに奥歯に物の引っかかったような感じですね。特に昨晩のこと は。」 「だがもし彼女が犯人だとしたら、「かいじょし」ってのはなんなんだ?」 「うーん…。あっ、「下位女子」ってことじゃないですか?身分の低い女の人ってことで。」 山さんは呆れ顔で、 「お前なあ、時代錯誤もはなはだしいぞ。」 「山さんに言われたくないですよ。それに、書いたのは国文学者ですからね。」 「ならなおさら下位女子はないだろ。」 そこで順二は、はっとした顔をして、 「今思いついたことですけど、「女子」ってくっつけると、「好」きって言葉になりますよね?」 「だから?」 「わかりません。」 山さんは呆れてものも言えないと、首を振りながら深いため息をつい て、精一杯のジェスチャーをした。 しばらくして、秋山邸に着いたのは、息子の大作だった。 「すいません、遅くなりました。」 応接間に居を移した刑事等は、そこで文香に通された大作を迎えた。 「いえいえ、この度はとんだことになりまして。我々も早急に事件を解決できるよう努力しますので、何とぞ御協力お願いいたします。」 「それはもちろんですが、そうするとやはり、親父は殺されたのですか?」 「ええ、残念ながら。」 「何てこった。やっと勘当が解かれたっていうのに。」 「それで、一応皆さんにお聞きしていることなんですが、昨晩はどちらに?」 「昨晩は、ずっと自宅にいました。」 「誰かとご一緒で?」 「いえ、独り身ですので。」 「そうしますと、証明できる方はいらっしゃらない?」 山さんがそう言うと、大作は顔をしかめて、 「そうですけど。そんな私が父を殺すなんて、意味がない。」 「しかし勘当されていたぐらいですから、仲はあまりよろしくなかったわけでしょう?」 「確かにそうですが、それも最近解かれて、家の出入りを許されたんで す。なのになんで今さら殺さなくちゃいけないんですか?」 まくし立てる大作に、少しも怯むことなく山さんは、 「失礼ですが、勘当された理由はなんだったのです?」 「私が定職にも就かずに、ぶらぶらしていると思ったからでしょう。し かし私はただぶらぶらしていただけじゃなくて、作家を目指していたのです。」 大作は落ち着きを取り戻すように、深くため息をついて続ける。 「まあそう言いながらも実際若い頃は、書くこともしないで、親の金を あてにして遊びほうけていたから、勘当されても仕方が無かったかもしれません。」 大作はうっすらと目に涙を浮かべながら、なおも続けた。 「しかし、最近はちゃんと物書きとしての仕事をしています。それで今回、本の出版が決まって。それで親父もやっと俺のこと認めてくれて、家の出入りも許されるようになった。これからどんどん書いて、ベストセラーも出して、親孝行するぞと思っていたのに、死んでしまうなんて…」 そう言うと大作は泣き崩れた。 山さんは弱り顔で、 「困りましたなあ。しかし、何とか昨晩のことを証明していただかないとねえ。」 山さんもさすがに少し当惑ぎみだったが、思い出したように、 「そうだ大作さん、こちらを見てもらえますか?」 と言って、ビニール袋に入った例のメモを差し出した。 大作はそれを受け取って、目を落とす。 「かいじょし?何ですかこれは?」 「どういう意味だと思われますか?」 聞かれて大作は、しばらく考えて、 「かいじょしねえ。怪しい女子ってことですかね?」 「なるほど、怪女子ですか。それはまだ考えてなかったな?」 と山さんは順二に尋ねる。 「そうですね。なかなか人によって色々な見方があるんですね。」 「いったい何なんですか?」 大作はわけが分からず、山さんに尋ねるが、山さんはそれには答えずに、 「いえ、わかりました。それではしばらく別の部屋でお待ち下さい。」 と言うと同時に応接室に飛び込んできた者がいた。 つづく |
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