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国語学者であり、資産家の秋山氏が、自宅で殺されていた。
W山田刑事は早速秋山氏宅に急行する。 現場検証をする鑑識係が報告する。 「どうやらダイイングメッセージらしきものがあるのですが。」 「ダイイングメッセージとはまた時代がかってるねえ。さすがは国語学者さんだ。」 と山さんが言うと、 「山さん、仏さんに失礼ですよ。」 と山田刑事がたしなめる。 「どれ、どんなんだい?」 山田刑事を無視して山さんが聞くと、鑑識係は一枚のしわくちゃになったメモ用紙を差し出す。 「ガイ者が握り締めていました。死後硬直が始まっていたので開けるのに苦労しましたよ。」 「どっちの手で握っていた?」 「左手です。」 鑑識係が答える。 「ガイ者はどっち利きだ?」 重ねて山さんが聞いた。 「ええまだ判りません。」 鑑識係がそう答えると、山さんは山田刑事に向かって、 「順二!ちょっと関係者にあたってこい!」 「え?」 「とっとと行ってこい!」 「は、はい。」 順二が部屋から飛び出して行くのを見て、 「おそらく右利きであったと思われます。」 別の若い鑑識係が恐る恐る山さんに進言する。 「どうしてそう思う?」 山さんはじろっとその鑑識係を睨んで聞く。 「はい、あの、おそらく、そのメモを書いたペンが、ガイ者の右手近く に転がっていたからです。」 ガチガチになりながらも、何とか言いたいことを伝える。 「なるほどな。そうすると、少なくとも見た目に不自然なところはないな。」 「どういうことですか?」 年配の方の鑑識係が尋ねる。 「これが右手に握らされていたとしたら、ちょっと不自然だったということだよ。」 「なるほど。犯人に握らされていたかもしれないと。」 「左手でメモを押さえながら、右手にペンを持って書いたなら、そのまま左手に握るのが自然なんじゃないかね。息も絶え絶えならなおさらな。」 山さんが一通り自分の考えを話し終えたところで、順二が部屋に戻ってくる。 「警部、やっぱりガイ者は右利きだったそうです。でも、なんで…」 報告に続いて疑問を問い正そうとする順二を、またも無視して山さんはメモの文字に目を落とす。 「かいじょし」
とひらがなで書かれている。
「どういう意味だこりゃ?」 つぶやく山さんに、順二が答える。 「介助士って意味ですかね?」 「そんな言葉あるのか?」 「わかりませんけど、秋山氏は介護を受けてましたから。」 「それを早く言え!で、その介護士だか介助士だかはいるのか?」 「はい、呼んできます。」 そう言って再び順二は部屋を飛び出していく。 「まったく、使えねえ。」 それを見送って山さんはつぶやいた。 「で、死因はなんだい?」 「首を絞められていますねえ。紐というよりも、もっと幅の広いものです。ベルトとか帯とか。」 年配の鑑識係が答える。 「ふん。時間は?」 「昨夜11時から12時の間ですね。おそらく寝込みを襲われたんじゃないですか?」 若い方の鑑識係が答えると、 「そりゃおかしいだろ。だったらどうやってメモを残せたんだ?」 と山さんは不審な顔で言った。 「それもそうですね。」 「撲殺だったら殴られてからしばらくして死ぬってのも有り得るが、絞殺じゃ死んだらそのままだろ。息を吹き返して、また死んじまうってことはないんじゃないかい?」 「確かに考えにくいですね。」 「そうなると、ガイ者は犯人が現れたとき、起きていたってことだ。それで身の危険を感じて、メモを書いた。そしてそれを握り締めたまま殺された。」 「犯人はメモに気づかなかったんですかね?」 「わからんように書いたのか。しかし、ペンは手元に転がっていたのだろう?」 「はい。」 「そうすると、やはり犯人がわざと握らせた可能性も捨てきれん。とにかく筆跡を鑑定して、ガイ者が書いたものかどうか確かめてくれ。」 「わかりました。」 と答えて若い鑑識係が出て行くのと入れ替えに、順二が介護士の尾藤を連れて入ってきた。 「彼が介護士の尾藤さんです。彼が死体の第一発見者です。」 「尾藤さん。いくつかお伺いしたいのですが、まず発見した時の事をお聞かせ下さい。」 山さんに聞かれて尾藤は思い出すようにしながら答える。 「はい。今朝、僕はいつものように9時にここに着きまして、部屋に入ったら秋山氏が、ベッドの下でうつ伏せに倒れているのが見えました。急いで駆け寄って脈を診たりしたのですが、既に亡くなって何時間か経っているのがわかったので、急いで警察に連絡しました。」 「ほう?何故病院ではなく、警察へ?」 「何故と言われても困るのですが。秋山さんはもう亡くなっていたんで病院ではないなと。でもまさか殺されているとは思わなかったです。」 「殺さされているといつ知ったのですか?」 山さんがギラリと目を光らせて尾藤の顔を見る。 「さっきその刑事さんに呼ばれた時ですけど。」 尾藤の言葉に山さんは、順二の顔を目殺するかのごとく睨みつける。順二はしまったという表情を浮かべて、首をすくめた。 「わかりました。それで昨日はこの家に来てましたか?」 「ええ、ここには毎日来ています。いつも9時から夜の9時までいます。」 「それはずいぶん重労働ですね。」 「ええ、普通は介護士はそこまで長い間付きっきりにはならないのですが、僕の場合は秋山さんの専属ということで。まあ、その分結構な額を貰ってますし。」 「そうですか。それで昨晩も9時にこの家を出たのですね?」 「はい。」 「その後、戻ってきたということはありませんか?」 山さんの言葉に尾藤は顔色を変えた。 「それはつまり、僕を疑っているということですか?」 山さんは慌てる風もなく答える。 「いえいえ、これは皆さんにお伺いすることですから。よろしかったら9時以降の行動もお聞かせ願いませんか?」 「はあ。僕は自宅から電車で通ってるんで、昨日も駅まで歩いて、9時半の電車に乗りました。それで自宅近くの駅で降りて、ああ、それが9時50分くらいです。それで駅前のコンビニでちょっとした買い物をして、家に着いたのが10時ぐらいだったと思います。それから風呂に入って寝ました。」 「尾藤さんは一人暮らしですか?」 「いえ、両親と妹が一緒です。」 「失礼ですけど、確認を取らせていただきたいので電話番号を。今、ご自宅にはどなたか?」 「ええ、いいですよ。母がいると思います。」 「わかりました。順二!」 呼ばれた順二は尾藤から番号を聞いてメモし、部屋を出て行った。 「そのう、僕は秋山さんから、かなりたくさん手当も頂いていたし、彼が亡くなったら職が無くなってしまいます。僕が秋山さんを殺す理由なんて無いですよ。」 「我々もそう思いますが、可能性を一つ一つ潰していくのが我々の仕事なんです。勘弁してください。」 「はあ。」 しばらくして順二が戻ってくる。山さんの耳元で囁く。山さんは頷いて、 「尾藤さん、お母さんと連絡がとれましたよ。大変ご迷惑をおかけしました。これに懲りずにまた何かありましたら、ご協力お願いします。」 「ええ、もちろんです。僕も犯人が恨めしいですよ。僕の職を奪って。秋山さんは気難しくて、しょっちゅう怒鳴られましたけど、良くして貰ってましたから。」 「はい、早急に事件解決できるよう努力します。」 「それじゃあ、失礼します。」 そういって、部屋から出て行こうとする尾藤に、山さんが、 「ああ、最後に一つだけ。よろしいですか?」 と今思い出したようにたずねる。 しかしそれは山さんが、事件について重要視しているポイントを質問するときのパターンだということが、最近順二にもわかってきた。 「ええ、なんです?」尾藤が振り返って聞き返した。 「あなたが9時頃ここを出るときは、いつも秋山さんはもう寝てますか?」 「ええ、そうですね。たいていは。」 「それじゃあ部屋の電気はどうです?」 「はい、大抵僕が消して出て行きます。」 「今朝入った時、電気はどうでした?」 「消えてましたね。」 「そうですか。あと秋山さんはどれくらいのレベルの要介護人だったんですか?」 「刑事さん、よく知っていますねえ。レベルだなんて。」 「まあ、いつ自分も、そうなるかわからんからね。ちょっとは勉強してますよ。」 そう山さんが言うと、尾藤は笑って、 「やだなあ、まだまだお元気そうですよ。秋山さんは数年前に一度、 脳溢血で倒れちゃって。それ以来寝たきりになってます。まあ、ものを書いたりの軽い作業は出来ますが、体を起こしたり、もちろん自分で歩くことも出来なかったですね。」 「わかりました。ありがとうございました。」 尾藤は部屋を出て行った。 「どう思うね?」 山さんは年配の鑑識係に聞く。 「まあ、シロじゃないですか?動機から見ても。それに、あのメッセージ。あれをガイ者が書いたにせよ、犯人が書いたにせよ、介助士の彼がそのまんま犯人では芸がない。」 「私もそう思う。」 そこで鑑識係の電話が鳴る。 「はい。そうですか、はい、わかりました。」 電話を切ると、 「山さん、やはりあのメモ、ガイ者の筆跡と、一致したそうです。」 「ずいぶん早いねえ。」 「ええ、国文学者だけに、鑑定の元になる書き物が豊富にあったので、やりやすかったみたいですよ。」 鑑識係の言葉に、山さんは頷いて、 「しかし、そうなるとますます尾藤の線は消えたなあ。」 「まあ、自分と思しきメモを見て、そのままにしておくのもおかしいですからねえ。」 「うん。それに最初からおかしいと思っていたんだが、やはり介護士のことを介助士とは言わないんじゃないかい?」 「確かに耳慣れないですね。」 山さんはそこで部屋をぐるりと見回す。さすがに国文学者の部屋とあって、四方の壁を書棚で覆いつくしている。わずかにドアとそれを開けるためのスペースが残されているくらいだ。 その中で山さんは、一冊の国語辞典を取り出す。パラパラとページをめ くり、「介助士」なる言葉を調べる。やはりそんな語句は無かった。 「介護士」のほうを調べてみると、やはりそのものの語句はなかったものの、「介護」という語句の補足で、「介護(福祉)士」という語句が掲載されていた。 「やっぱり、のっとらんよ辞書にも。」 「まあ、新しい時代の言葉ですからねえ。」 鑑識係が答える。 山さんはそのままページをめくり、「かいじょ」という語を調べる。 「介助」以外に「かいじょ」と発音、表記するのは、「解除」という語句しかなかった。 「他には解除という語しかないねえ。そうすると「かいじょし」は「解除し」か。解除したという意味かな。」 「何を解除したのですかね?」 鑑識係も首を捻る。 「あのう。」 そこで順二が口を挟む。 「何だ?」 じろっと山さんが睨む。怖気づきながら、順二は言った。 「秋山氏には、勘当した一人息子がいます。それが最近この家の出入り を許されたそうなんです。」 「誰に聞いた?」 「この家のお手伝いさんです。呼んできましょうか?」 「それはいいが、それとこれとどういう繋がりがあるんだ?」 山さんがそう聞くと、順二は少し得意げな顔になって、 「ですから、息子の勘当を「解除し」たってことかなと思って。」 山さんは苦虫を噛み潰した様な顔になり、 「まあいい。とにかく、そのお手伝いさんを呼んでこい。それとその当の息子に連絡は?」 「はい、さっき呼び出しまして。すぐに駆けつけるとのことです。」 「わかった。」 山さんが頷くのを見て、順二は三度、部屋を出て行った。 「いくらなんでも、それはねえよなあ。」 山さんはつぶやく。 つづく |
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