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作家志望であるかどうかあやしくなってきた作者が、広く世の中に認知してもらうためのあらゆる実験を行うための日記。また作家になるかどうかあやしくなってきた過程を随時報告していきます。
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「はい、それじゃあお友達の方を……」

「えーっ!!」

彼女は観客の方に、にっこり微笑んだ。

「ありがとうございます。それでは、山田順二さんを」

テレビを見ながら、刑事部屋でラーメンをすすっていた順二は、画面の中の女優の言葉に、ぴくっと反応する。

「ありがちな名前だけど、芸能人で誰かいたっけ?」

独り言を呟いて、テレビに目を向ける。

アシスタントのアナウンサーが、コードレスフォンを女優に手渡している。

いつもなら、ゲストの隣に置いてあるモニターに、電話する相手の顔が映し出されるのだが、今日は誰の顔も出てないことに、順二は気付いた。

「おかしいな、こんなことあったっけ?」

不審な顔の順二の携帯が鳴る。

「はい、もしもし山田です」

「あ、順二くん?私。テレビ見てる?」

「は?」

耳慣れない、聞き覚えのある声。

「見てなかった?テレビつけて!お昼のあの番組よ!」

あーなんか耳がおかしい。

スマップの歌みたいな、ユニゾンってやつ?

順二はデジャブを耳で聞いたような感覚にとらわれた。

「あの、どちらさまですか?」

ようやくまず聞くべきことが聞けた順二。

「わたしよ、藤巻、藤巻愛よ」

それは確かに、画面に映る女優の名前だった。

「あー愛さん?」

間抜けにオウム返しする順二。

「そうよ!ちょっと待って。今ヤモさんと替わるから」

愛が司会者に、電話を手渡すのが見えた。

「どうも初めまして、ヤモリです」

「はあ、初めまして」

順二の思考は、八割方ストップしていた。

「それじゃあ早速ですけど、明日来てくれるかな?」

「あ、いいとも!」

反射的に、順二は叫んでいた。

携帯を構えたまま固まる順二をよそに、画面の中の二人は、コーナーの締めに入っていた。



「もしもし、山田さん?」

携帯から聞こえてきた、今度こそ全く聞き覚えのない声に、順二はびくっと体をすくませた。

「山田さん?番組のスタッフですけど、聞いてます?」

「ああ、聞こえてますよ」

「明日、午前11時までに、局の受付に来て下さい。よろしくお願いしますね」

「あ、あのちょっと待って!」

そのまま電話を切られそうで、慌てて順二はスタッフを止める。

「明日、どうして?あの俺ですか?その……」

全く日本語になってなかったが、スタッフは理解してくれたようだ。

「なんでって、山田さんいいともって言いましたよね?じゃあ明日よろしくお願いしますね」

結局一方的に電話を切られてしまった。

「な、なんなんだ……」






その日の仕事は、散々だった。

集中力がいつにも増して散漫だった。

山さんには、怒鳴られっぱなしで、事件現場の痕跡を危うく消してしまいそうになったぐらいだ。

せめてもの救いが、刑事部屋の順二以外のみんなは、忙し過ぎてお昼の番組など、誰も見ていないことだった。それもどうかと順二自身思ったのだが。



明日はちょうど非番で、体は空いている。
しかし、そもそも刑事である自分が、テレビ出演などしてもいいのか?

そんなことを考えているうちに、勤務時間が終わりに近付き、帰る支度を始めたところで、順二は刑事部長に呼び出された。


そんなことは、初めてだった。


順二は、嫌な予感がしたが、部屋に入った彼を出迎えた刑事部長の言葉は、予想を裏切らないものだった。

「山田君、テレビ見たよ」

びしっと、頭の天辺から背中に沿って、一本の真っ直ぐな鉄の棒を入れられたように、直立不動になる。

「あ、あれは、その違うんです!私は……」

刑事部長はじろりと順二を睨み、

「君は明日はちょうど非番らしいね。頑張りたまえ。我々の会社のイメージアップに貢献してくれよ」

最後は、にっこり微笑む刑事部長。

「あの、ということは、テレビ出演は?」

恐る恐る順二は聞いた。

「まあ本来なら、特命として辞令を出すところだが、その必要もないだろう」

刑事部長は、笑みを絶やさず言った。

「いいともって言ったんだからな、君は」





家に帰ってからも順二は、まだ頭が混乱していた。

「なんなんだ、いったい。何かの陰謀か?刑事部長までからんでるなんて、相当大規模なドッキリだぞ」

シャワーを浴びながら、独り言が止まらない。

「だいたい誰なんだあの藤巻って。なんで俺の携帯番号知ってるんだ?」



シャワーから出て体を拭いていると、携帯が鳴った。

見たことのない番号が、サブ液晶に表示されている。

まさかと思いながらも、順二は携帯を開いた。

「もしもし、山田ですけど」

「順二君?私です、わかりますか?」

弾んだ声は聞き覚えがある。

「藤巻さん?」

「そうです。あの、今日はすいませんでした。突然電話しちゃって。でも良かった。いいともって言ってくれて」

「あの、そのことなんだけど、誰かと間違ってませんか?僕は藤巻さんのこと知らないんですよ。すいません」

携帯を持ちながら、本当に頭を下げる順二。

「いやだあ、順二君やっぱり私のこと覚えてなかったのね。まあでも仕方ないか、あの頃とは私、だいぶ変わっちゃってるし。そもそも名前が違うんだもんね」

そう言って彼女は、楽しそうに笑う。

「名前が違うって、じゃあ君はいったい……」

「私、藤本舞よ」

彼女の告げた名前で、順二の記憶が一気に蘇る。

「もしかして、舞ブー?あ、ごめん……」

「いいの、気にしなくて。そう呼ばれてたことも、順二君はそう呼ばなかったことも、知ってたから」

舞は、明るい声で言った。

努めて、そうしているように聞こえた。

今順二は、はっきりと彼女のことをその声を思い出していた。

昼間のあの電話のとき、聞き覚えのある声と感じたのを、順二は直前のテレビで、とばかり思っていた。

そうじゃなかった。

その声は、遠い昔、彼の中学時代に強く印象づけられた記憶だった。



「そうか、藤本だったんだ。言われてみれば面影あるかなあ」

「もう、相変わらず調子いいんだから。でも、本当のわたしのことは、覚えててくれたんだ。嬉しい」



確かに順二は覚えていた。彼女の声を覚えていた。

彼女は中学3年生の時の同級生だった。

彼女はいわゆるイジメられっこだった。

順二はイジメには参加しなかったが、特に彼女と話をした訳でもなかった。

それでも、彼女の声を覚えていた。

それほど、印象深い声だった。

はっきり言うと、順二は彼女の声が好きだった。

でも当時はそんなことは、周りには言えなかった。

好きなものを素直に好きと言えない、そんな切ない青春の記憶が、順二の中で彼女の声とともに蘇っていた。



「順二君、覚えてるかな?」

中学時代に飛んでいた思考が、引き戻される。

「え、なにを?」

「あのね、あの頃わたし、いじめられてたでしょ。それである日、どうしようもなく落ち込んでた時に、教室で独りでいた私に、順二君が話かけてくれたの」

「そうだったっけ」

「やっぱり覚えてないんだ」

彼女は笑いながら言った。

「ごめん」

「ううん、いいの。それでね、順二君、急に教室の中に入って来て、『藤本って、いい声してるよな』って。それだけ言って、またすぐに教室から出て行っちゃった……」

微かだが、順二にも思い出せる部分があった。

「俺、そんなこと言ったんだな」

「そうよ。それで私、歌手を目指そうって思ったの。順二君のあの一言がなかったら、今の私はなかったわ」

彼女はその美しい声で、きっぱりと言った。

「だから、いつかあの番組に出る事があったら、絶対に順二君を呼ぼうって、ずっと前から決めてたの。今は女優をしてるけど、まだ歌手になるのを諦めたわけじゃないのよ。その夢を持つきっかけを作ってくれたのが順二君なの」

そう言うと、彼女は順二の言葉を待つ様に沈黙した。

それに答えて順二は言う。

「そっか。そんな風に思っててくれたんだ。ありがとう」

順二はまた、携帯を持ったまま頭を下げる。

「それは、わたしの台詞よ。本当にありがとう」

そして、ふたりで笑った。



落ち着いた所で、順二は疑問に思っていたことを聞く。

「そういえば、携帯の番号はどうやって?」

すると彼女は、笑った。

「ああ、それなら順二君の実家に電話したら、お母様が教えてくれたわ」

「お袋かあ。まったく刑事の母親なのに……」

順二は母親の軽率な行動に溜め息をつく。

「そう、その時に順二君が刑事になったことも聞いたの。ぴったりだと思った。順二君、昔から正義の人だったから」

順二はむずがゆくなる。

「いや、おれは別にそんな大したことないさ」

「ううん、私にとって、順二君はいつまでも正義の味方だから」


ふたりの間に沈黙が流れた。


「藤本、お、おれ……」

言いかけた順二の声に、舞の声が重なる。

それは、ふたりの最初で最後のハーモニーだった。

「わたし、これからまた仕事なの。もう切らなくちゃ。ごめんね」

自分が遮った順二の言葉を、彼女は聞き返そうとはしなかった。

順二もそのまま、続きを自分の中に閉じ込めた。

「そっか、やっぱり忙しいんだな。じゃあ明日は頑張るよ」

「うん。期待して見てるね。じゃあ、さよなら」

「ああ、さよなら」


そのまま順二は携帯を切った。





すっかり乾いている髪の毛を、なおもタオルでゴシゴシ拭きながら、順二は缶ビールのプルタブを起こした。

「藤本舞か……」

呟きながら順二は、自分が中学の頃に好きだったのは、本当に彼女の声だけだったのかと考えた。


本当は彼女自身が好きだったことをとうに思い出していた。

順二はぐっとビールをあおり、ひとりでにやけるのだった。





ビールを飲み終える頃、順二は少し冷静になっていた。



そりゃこのまま終わったらいい話さ。

でもおれは明日テレビに出る。

まあ、それもいいさ。

でもその後で、俺は誰に電話をかけたらいいんだ?



子供の頃から続くあの番組を、自分が終らせることになるかと思うと、幸せに浸ってばかりもいられない順二だった。



END





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【2006/02/09 02:42】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(2) |
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コメント
コメントありがとうございます。親孝行できるときにしといてね。わたしにはもう両親いません。
【2006/02/09 03:35】 URL | バツイチ女のひとり言 #-[ 編集]
なんかなんかいいじゃないですか~
「世にも奇妙な物語」を髣髴とさせる感じがしました。
漫画の世界もそうですけど、
主人公巻き込まれ型のストーリーって、読み手を引き付けやすいんですよね。
「いいとも」とわかっていながらも
けんさんの文章の魔術に引き込まれ・・・
あっという間に読んでしまいました!
私だったら「いいとも」見ていても
ニヤニヤしながら見てるだけだと思うのですが;
こんな番組からも
ネタを吸収してしまうという
けんさんのアンテナがすごいなあ

じゃ今度は「ごきげんよう」で(←殴)
【2006/02/09 20:09】 URL | youxiang #-[ 編集]
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Author:けん@neo
作家を目指しながらも、日常に追われる日々を過ごす37歳。
名古屋生まれの、名古屋育ち、だが現在は関東在住。
作家に限らず、同じように自分の才能を世の中に送り出したいと考えている方たちと、交流がしたいです。
YouTubeにTwitterもやってます。

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