VC PTN 2870485 BlogKenJr. 自信アリ
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作家志望であるかどうかあやしくなってきた作者が、広く世の中に認知してもらうためのあらゆる実験を行うための日記。また作家になるかどうかあやしくなってきた過程を随時報告していきます。
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自信アリ
「じゃあさ、一旦ここで休憩をとって、ついでにお昼も食べよっか」

「そうね。それがいいんじゃない。それで……」

そこで言葉を切って、亜美は、目を閉じて耳を澄ませるような、素振りをする。

文太は、地図を見ながら話していたので、亜美のそんな仕草に気付かず、

「で、ここのI.C.で、高速を降りるのが一番近いと……」

「しっ!」

亜美が文太の言葉をさえぎり、人指し指を立て、口の前にあてる。

「どうしたの?」

何となく分かっているが、一応文太は聞いてみた。

すると、亜美は目を開け、

「今、揺れたよね?」

「揺れないよ」

またか、と言った顔で、文太はつぶやいた。

「揺れたって。絶対揺れた」

「いいよ、分かったよ。揺れた、揺れた」

「何よ。信じてないでしょ」

「信じてるよ。じゃあTVつけてみるよ」

言うと、リモコンを取って文太はTVをつけ、チャンネルをNHKに合わせる。

しかし、そこには見たこともない歌手が出演する歌番組がやってるだけで、速報もなくテロップも流れない。

亜美は文太からリモコンをひったくり、次々とチャンネルを変えていくが、どこも通常の番組でテロップもない。

一周して再びNHKに戻っても、やはり同じ歌番組。

「おかしいなあ」

真剣な顔で首を傾げる亜美を見て、溜め息混じりに文太は言う。

「おかしくないよ。いつもそうじゃないか。揺れてる、揺れてるって言ってもちっともわかんないし。TVで見ても何もない。気のせいだよ」


文太は亜美のことを愛している。


自分から告白して、口説き落としたし、ようやく付き合うことが出来て一年。

最初は初めてのデートの時だった。

張りきって予約したホテルのレストラン。

「今、揺れたよね?」

全く何も感じなかった文太だが、その時は、

「うん、何かね」

と、とりあえず言った。

その時は、「やっぱりね」と満足そうにしきりに頷く亜美を、すごく可愛く思えたものだった。



しかし、それも毎回のデートの度に、しかも毎回文太自身は何も感じないとなると、話は変わってくる。

気のいい文太は最初のうちは、自分が鈍感なのかも、と思った。

しかし、他の多くの人がいる前でも、同じ様に「揺れた」と主張する亜美。

そして自分と同じ様な反応を示す、周りの人々を見る内に、やはりおかしいのは亜美の方なんじゃないか、と思い始める。



お互いの部屋を行き来するようになって文太は、「揺れた」と彼女が言う度にTVをつけて、確かめるようになった。


それから彼女が「揺れた」と言う回数は、もう覚えてないが、その間、彼自身が揺れを感じることは一度もなかった。

「地震がありました」とTVが言うこともなかった。

最近では、もう諦めている。

そのことさえ無ければ、本当に可愛らしくて、優しい理想の彼女なのだ。




「やっぱり信じてないわね」

「だって実際揺れてないじゃないか」

出会った頃にはとても言えなかったが、今は少々きつい言葉も言える。

そういう深い仲になったとの自負が、文太にはあった。


「揺れたのに」



しかし亜美も、それ以上は何も言わず、今度行くドライブの予定の続きを、二人で仲良く決めた。



「じゃあ、日曜日ね」

「うん。着いたら電話するから」



亜美は文太の部屋を出て、駅に向かった。

「最近は、送ってくよって言ってくれなくなったなあ……」



亜美も、自分の「揺れた」と言ってしまう癖を、どうにかしたかった。

小さい頃からそう言ってきた。

理由はない。

ただ揺れたと感じたから、それを口にするだけだ。

しかし、今までそれに同意してくれる人はいなかった。

だから文太が最初のデートの時、

「揺れたかも」

と言ってくれた事が、すごく嬉しかった。

今でも覚えている。

実際は、「何かね」と曖昧な言葉だったのだが、亜美にとっては初めて、自分が認められた瞬間だった。

高校や短大に合格した事より、就職活動で内定を貰った時よりも、自分を肯定された気分だった。

大袈裟かもしれないが、それほど誰からも同意を得られたことがなかったのだ。

ことこの「揺れた」ということに関しては。

別に、予知能力があるわけではない。

いつも感じるのは、「揺れた」という感覚であり、これから揺れるだろう、ということではない。

しかし、周りは揺れてないと言う。

周りが揺れたと言うものを、前もって予知出来るわけでもない。

それも普通に、周りと同じ様に感じる。

ただ自分は、周りの人も感じない、おそらくTVでも報道されないということは、地震計にも感じない、僅かな揺れも感じてしまうのだ。



亜美は決して揺れてること自体を否定することなく、そう自分の都合のいいように考えるようになった。

だから文太も、同じ様に思ってくれてるものと信じていた。

文太自身が揺れを感じてなかったとしても、亜美は敏感に、彼の感じない揺れも感じているのだと。

しかし、やっぱり文太も、ただ単に亜美の気のせいだと思っているみたいだ、と亜美は悟った。

亜美ももう諦めていた。

例え文太が揺れを信じてくれなくても、彼はそれ以外のことは、自分を信じ、愛してくれているのが実感出来たからだ。

亜美にとっても、文太は最高の彼氏だった。





はっとして亜美は、横の男性に言った。

「今、揺れましたよね?」

「ええ、そりゃまあ電車ですからね。揺れるでしょ」

男は怪訝そうに亜美のことを見ながら言う。

「そうじゃなくて、その、……いえ何でもないです。すいません」

亜美は諦めて思った。

「またやっちゃったなあ、……何ですぐに思ったこと口に出しちゃうんだろ。他のことはそんなこと無いのに。揺れた時だけ……」

亜美は少し憂鬱な気分のまま電車を降り、自分の部屋に向かった。





「ええ、はい。それで大丈夫です。じゃあそちらには四時頃着きそうなので、はい、よろしくお願いします」

そう言って文太は、今度の日曜日に泊まる旅館への電話を切った。



久しぶりの二人で泊まりの旅行だった。

温泉地に向かって、紅葉を楽しみながらのドライブ。

予約した宿は、温泉はもちろん、地元産の牛鍋料理と地酒が自慢だという。

年寄りくさいと言われそうだが、亜美も文太もそういう落ち着いた旅が好きな点でも気が合った。


電話が鳴る。

携帯の画面を見ると亜美だった。

「もしもし、今着いたよ」

お互いに別れたあと、家に着いたら相手に電話をする。

どちらから言ったわけでもないけど、自然に決まった二人のルールだった。

電話がかかってこないと、何かあったのかと二人とも心配するからだ。

「ああ、宿大丈夫だったから」

「そう、良かった。ごめんね、任せちゃって」

「いいよ。こういうの結構好きだから」

「ありがとう。あっ……」

「何?」

文太は聞いたが、亜美は黙ったままだ。

察して文太は自分から聞いた。

「今、揺れた?」


しばらく沈黙した後、

「うん……」



文太は電話を切ってから、一応TVをつけてみたが、どのチャンネルも通常の番組を流していた。






日曜日は、朝から素晴らしい天気だった。

紅葉のシーズンには少しはやいかもしれないが、行楽シーズンの連休には変わりなく、渋滞が心配だった。

しかしドライブをするには、丁度いい車の流れ具合だった。

予定通りのサービスエリアで、休憩を兼ねて昼食をとる。

少し高台になっているS.A.地内の裏手を覗くと、見事な色付きを見せる木々が、集まった観光客の目を楽しませていた。

文太も早速バッグからデジカメを取り出し、人々の関心を集める風景を、切り取って収めた。

亜美はその集団に混ざって、色付く山々を眺めている。

文太は今度は亜美に焦点を合わせて、シャッターを押した。

文太に気付いた亜美は、

「ねえ、誰かに撮ってもらおうよ」

と言った。

文太は近くにいた親子連れの父親に頼んで、紅葉をバックに二人の写真を撮ってもらった。

お返しに彼らのカメラで、家族の揃った写真を撮ってあげた。



休憩を終えて二人は、再び車に乗り込んだ。



その後の道も混むこともなく、ドライブは順調だった。

目的のインターチェンジまで、あと5㎞。



一周したCDを交換するために取り出した亜美は、出てきたCDを持ったまま固まった。

「どうした?」

微かな車のエンジン音だけが響く、少し重い沈黙。

「今、揺れたよね?」

まさかとは思ったが、文太は呆れて言った。

「揺れたって運転中だぞ?車に乗ってるんだぞ!わかるわけないじゃないか!」

文太は少し興奮気味に言った。

「そうよね……」

そう言いながらも、亜美が納得していないのは明らかだった。

文太は手を伸ばしてラジオをつける。

次々とバンドを変え、

「どうだ、どこでも地震情報なんてやってないぞ」

「うん、わかった」

文太には、とてもわかったようには聞こえなかった。

「いい加減にしろよ!いいさ、揺れを感じるのは別に。でも何も口に出さなくてもいいじゃないか。黙ってればいいだろ」

「うん、そうだよね」

その言葉は本気であることが文太にもわかった。


亜美があまりにも済まなさそうにシュンとしているので、彼もそれ以上何も言えなかった。





新しいCDをカーオーディオに入れ、流れる音楽を聞きながら亜美は考えていた。

何故、自分が揺れを感じるのか。

どうしてそれを、人に伝えようとしてしまうのか。

考えるというより、既にわかった。

わかってきた。

最近になって段々揺れを感じる間隔が、短くなってきていた。

そして、揺れる感覚も強くなってきている。


―これだ。これをみんなに知らせるためだったんだ―



亜美は同時に、狼少年の話を必死に思い出そうとしていた。

いつもいつも「狼が来るぞ!」と嘘をついていた少年は、最後に本当に狼が来た時にどうなるんだったっけ?

みんなは信じなくて食べられてしまって、知ってる少年だけが助かるんだったっけ?

それじゃあ教訓にならないか。

でも一人だけ残されたとしたら、それはそれでつらいかな。

私の場合は……





「どうした?」

亜美が急に空いてる方の手を握ってきたので、文太は聞いた。

何も言わない亜美の方をチラッと見ると、

「何でもないよ」

と言いながら微笑んでいた。

亜美は思った。

本当に大変な時は、人は何も言えなくなるんだなあ、と。

そして、例え言ったとしても、それでどうにかなるものではないことも。

今はもうはっきりと確信していた。





I.C.まであと少し。



車は相変わらず順調に走っていた。



今のところは……





END



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【2006/02/10 10:09】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(2) |
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コメント
これいい。想像力を掻き立てられる。星新一さんを思い出した。
【2006/06/07 18:51】 URL | omoteura #-[ 編集]
omoteuraさんへ

ありがとうございます!

星新一さんは僕の目標とする作家の一人です。

ショートショートに関しては、かなり星さんを意識して書いています。

【2006/06/07 18:55】 URL | けん@neo #-[ 編集]
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Author:けん@neo
作家を目指しながらも、日常に追われる日々を過ごす37歳。
名古屋生まれの、名古屋育ち、だが現在は関東在住。
作家に限らず、同じように自分の才能を世の中に送り出したいと考えている方たちと、交流がしたいです。
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