VC PTN 2870485 BlogKenJr. 株価
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作家志望であるかどうかあやしくなってきた作者が、広く世の中に認知してもらうためのあらゆる実験を行うための日記。また作家になるかどうかあやしくなってきた過程を随時報告していきます。
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株価
私の毎日は、朝新聞を読むことから始まる。

多くの同業者は、昼夜逆転の不規則な生活を送るが、私は毎朝8時に起き、きちんと朝食を摂り、新聞を読む。

午前中に少し散歩をして、それからパソコンの前に向かい、昼まで仕事をする。

昼食は12時にお昼のTV番組を見ながら摂る。

昼食後、1,2時間を読書の時間に割き、それから再び夕刻まで仕事をする。

5時から始まるTVニュースを見ながら、夕食の仕度をし、6時には夕食を摂る。

それからは適当に、TVをザッピングしながら見て、気になったものはメモをしておくし、ちゃんと続けて見たいものは、あらかじめビデオに撮っておく。

そして夜のニュースを見て、お気に入りの深夜放送を見た後、1時には寝る。

締め切り前になれば、TVの時間を削り仕事をするし、逆に見たいビデオが溜まれば、仕事の時間に見ることもある。

しかし、ほとんどの場合、いつも同じスケジュールで過ごす。

妻子のいない独身だから、同居人もいない。

だから、そういった人たちに合わせて規則的になっているわけではない。

むしろ、独りでいるからこそ、ちゃんと自分を管理しないと、とんでもないルーズな生活をしてしまいそうで、そうしている。

O型の私は、基本的に大雑把で、だらしがないのだが、きちんとルールを決めて、その生活を心がけていると、意外と続くことがわかった。

しかし一旦やめると、二度と出来なくなりそうな気がする。

それが怖くて、今の生活パターンをなんとか持続させている。



その中でも、なにを措いても新聞を読むことだけは、全てにおいて最優先している。

それが私のメシの種になるからだ。

私は主に、推理、ミステリーのジャンルを書いている。

そのジャンルは、アイデアが命だ。

そして、売れるものは得てして、最近の世の中の、不可解な事件を反映したものが多い。

少年犯罪や、風俗などをプロットの中に織り交ぜてやると、読者はすぐに飛びついてくれるし、読みやすいと評判になる。

まあしかし、そんな事はどんな作家も同じ様にやる事であって、そこにオリジナリティを出そうと思ったら、目先を変える必要がある。

しかし、最近になっておかしな事件が増加してはいるが、世の中にいる作家がみんなメシを食っていけるほどの数ではない。

私はだから、ミステリー作家だからといって、殺人事件や事故ばかりに目を通しているわけではない。

政治経済や、芸能、科学技術や、教育関係はもちろん、4コマ漫画や、他人の連載小説もくまなく読む。

しかもただ読むだけではなく、ここはミステリー作家だけに、私はとりあえずどんな記事にも、被害者と加害者を想定する。

殺人事件や、事故などは当たり前だが、例えばA社が新開発の商品を出したという記事を見れば、B社という新開発の技術を盗まれた架空の被害者が存在する、といった具合である。

そして、その中で使えそうなアイデアをメモしておく。

これを基にして、プロットを組み立て、作品を書いていくのだ。

正に、私の仕事の取っ掛かりになる部分であり、メシの種なのである。

毎月2千円そこそこ払うだけで、毎日膨大な量の情報=メシの種が入ってくる。

まあ、それを生かすも殺すも自分しだいなのだが。

今のところは、食うのに不自由しない程度には売れている。



私ぐらいのレベルは、珍しいのではないかと思う。

作家に限ったことではないと思うが、世の中のアーティストと呼ばれる職業の人々は、売れる者と売れない者の落差は激しい。

売れない者は、副業をしながらでないと、生活もままならない。

労働時間を考えたら、どちらが本業かもわからない場合がほとんどだろう。

しかし、売れる者は一変して大金を得る。

名誉や地位すら手に入る。

いい所に住んで、いいものを食べ、高い車に乗る。

男なら、女性関係も満たされるかもしれない。

交友関係だって、今まではお目にかかれなかった人と、親しくなれることもあるだろう。



残念ながら、私はそこまでの生活は送れていない。

しかし、そこそこ食えてはいる。

不自由は感じていない。

このバランスを保った状態を維持している者は、私の職種では珍しいことなのだ。

特に著作権、印税等の不労収入を得るものというのは、極端になる。

売れない者は売れないし、売れる者は生産高も上がるから、益々売れる。

一度売れれば、その後ある程度は生産高を増やしてくれるから、それだけで大金が手に入るのだ。

私の場合は、運よく定期連載の仕事が続いているだけで、それがたまに本になり、そこそこ売れる。

爆発的に売れたことがないから、出版社も部数を増やさない。

しかし、そこそこ売れ、売れ残ることもあまりないため、本は出してくれる。

それで今の生活が成り立っていた。

最近の活字離れの傾向は、益々目に見えて強まっていき、売れる本と売れない本の格差も激しい。

少し話題になった本や、以前売れた実績を持つ作家が書いた本は、ここぞとばかりに宣伝をし、多くのメディアに露出させ売り出していく。

そうすれば、また売れる。

この好循環に乗らないと、いつまでたっても売れずに、作家なのか趣味なのかわからないような者になる。

私は規模は小さいが、うまく好循環に乗った方だが、運が良かった。

この輪を大きくするためには、大作で傑作を書かなければいけない。

何だかんだいっても、きっかけには運が必要だが、やはり実力がないと大成はしない世界なのだ。

その大作も、日々筆を進めつつあるのだが、やはりメシを食うための仕事もこなさなくてはならない。

だから、どんな細かな情報も、それが使えそうな物なら、見逃すのはもったいない。

だから私は毎朝、新聞をくまなく読むのだ。



しかしそんな私も、どうしてもなおざりというか、集中して見れない面がある。

株価が書かれた面だ。

およそ新聞の記事、いや記事だけでなく、広告や、就職情報、TV欄や、映画館の案内まで、アイデアの種とみなして読みつくす私だったが、あの数字の羅列だけは、どうも見ていられない。

それでも企業名などから、たまにヒントを得ることもあるので、まったく見ないわけではない。

しかし、企業名を目で追っていても、横の数字が目に入って、チカチカしてくる。

だから、集中して見られないのだ。

一応、一通り目を通しているが、よっぽど目立った名でない限り、頭の中にうまく入ってこない。

だから、株価の面は読むというか、見ること自体が苦手だった。



今日もいつもと同様に、新聞を熟読している。

そして株価の面になり、ここもいつもと同様にさっと流すように見ていたら、一つの銘柄の所でピタッと目が留まった。



「鈴木善一  18,967」



なんだこれは。

見た目はまったくの個人名だ。

しかし、「マツモトキヨシ」なるドラッグストアーもあることだし(あれは企業名が同じだったか知らないが)、あってもおかしくはないだろうな、とその時は思った。

他にそんな名前は有ったかな、と思いながら再び目を通したが、まったくの個人名に見えるのはその銘柄だけだった。

1万8千円台といったら、結構な規模の会社なんじゃないかな、と思いつつ、不審な点に気が付いた。

大雑把とはいえ、毎日目を通していたはずだが、昨日以前にこんな銘柄はあっただろうか?

そんな疑問が沸いてきた私は、早速昨日の新聞を見る。

株価の面を開くと、

「鈴木善一  18,966」

と確かにある。

ふん、1円下がっている。

いや、昨日の新聞だから、1円上がったのか。

それにしても最近いい加減になり過ぎていたようだ。

こんな面白そうな銘柄を見逃すなんて。

何かのアイディアとして使えるかもしれないと思い、メモ帳に書いておく。

一昨日以前の新聞は、昨日がたまたま資源ゴミの日だったため、残ってなかった。

しかし明日からは、株価の面もちょっとは興味を持って見れるなと、ささやかな楽しみに喜びを見出す私だった。



翌日の朝も、8時から起き、同じように朝食を摂って、新聞を見る。

株価の面を先に見たいとも思ったが、楽しみな気持ちを抑えながら、他の面に目を通す。

するとよけいに期待が増し、興奮すらしてくる。

今までそんな気持ちを株式の面に対して感じたことは、もちろんなかった。

しかし今日にしても、ただあの「鈴木善一」という銘柄の値が、上がっているか下がっているかという情報が載っているに過ぎない。

しかしそれでも、何か妙に面白みを感じている自分が、不思議でもあり、想像力が豊かだとも思う。

かといって、まだそれを種として、何かアイディアが浮かんだわけではない。

が、今日の値の動きによっては、何か閃くものがあるかもしれない。

そんなことを思っていると、いつもとは逆に、記事の方が頭に入らないまま、待ちかねた株価の面に辿りついた。



「鈴木善一  18,968」

おお、また1円上がってる。

何が嬉しいのか、よくわからないが、何となく楽しかった。

世の中の株式をやる人の気持ちの、かけらぐらいは理解できたかなと思うと、期待通りにアイディアが閃かなかったことも忘れて、残りの面を流し読んだ。

後の記事からも、特にアイディアの種となる閃きを起こされなかった。

一通り読み終え、再び株価の面を開いてみる。

どうもこの銘柄を見てから、他に集中できない。

何としても、この偶然見つけたせっかくの種を生かして、一つ作品を書かないことには。

それまでは、他の記事に目を向けることが難しいなと、何となく感じていた。



昨日と同じように、メモに今日の値を書き足す。

「18,968円」

この1円の値上がりが、昨日わかっていたら、いくらか儲けることが出来たか。

しかし、1万8千円に対して、1円ではあまり利率が悪い。

おそらくは、金を借りていたら利息にも満たない。

それに、これぐらいの株価となると、扱う株の単位も1株ではなく、百や千といった単位になるのだろう。

株価が上がった方が、取り扱う単位も大きくなるのでは、やはりおいそれと手を出せるものではないなあ、と改めて思ってしまう。


それにしても、先のことが分かっているというのは、使えるかもしれない。




ある日、届けられた新聞の株価と、前日の終値が違うことに気付くトレーダー。

早速、新聞社に抗議すると、そんなはずはないと逆に怒られる。

彼は、隣人で同じ新聞を取っている人に見せてもらうと、日付けは一緒、他の記事もそっくり同じだが、株価だけ違う。

よく見ると、銘柄も知らないものが、自分の新聞の方には1つ混ざっていた。

不審に思うトレーダーだが、インターネットで株価を調べてみる。

そして、その日の取引が終了した後、終値の一覧を見て愕然とする。

なんと、自分の持つ新聞に書かれていた値とぴったり一致しているのだ。

しかも、見たことのなかった銘柄も、今日付けで店頭公開されている。

わけが解らないトレーダー。

わけが解らないが、わけなどどうでもいいと彼は思う。

(もし、明日以降もこの未来の株価が書かれた新聞が来たら、すごいことになる)

一日ずつの取引なので大きくは稼げないが、こつこつと資金を貯めれば、いずれ大きくもうけることも可能だ。

なんせ株価がわかっているのだから。

トレーダーは翌日が待ち遠しかった。



翌日の朝、彼はさっそく株価の面に目を通す。

やはり、そこに掲載されるはずの昨日の終値とは違う値だった。

彼もトレーダーとしての目がある。

この値が、その日の予想される終値であることもわかる。

しかし、まだ確信はできない。

その日はとりあえず、当たり障りのない金額で取引をしてみた。

もちろん、未来新聞の値にあわせた売買だった。

その日の取引の終了を待つまでもなかった。

新聞を見た中で、下げ幅と上げ幅のそれぞれ一番大きい銘柄の売り買いをしてみたが、彼の思ったとおりの方向に値は動いている。

ここから変わることもないだろう。

そして、終値はやはりどの銘柄も、ピッタリ1円の狂いもなかった。

(やばいものを手に入れてしまった)

前日の新聞社の対応や、隣人の新聞を見たところからも、その未来新聞を手に入れたのは彼だけらしい。

いったい何故か。

(自分が特殊能力者なのだろうか。もしかしたら、他人にはこの新聞も同じように普通に見えるのかもしれない)

彼は確かめてみようかとも思ったが、人に見せた途端に効力が失われるのは、おとぎ話ではよくあることと、思いとどまる。

(人に話すのもやめておこう)

とにかく理由はどうだってよかった。

自分の能力だろうが、なんだろうが、素晴らしい力を手に入れたことには変わりはない。

その後もトレーダーは、その未来新聞を使い、こつこつと小額からだったが、確実に利益を増やしていった…



まあ、こんなところだろうか。

とりあえず、話の大筋は出来た。

あとはオチをどうするかだ。

そこが一番難しい。

やっぱり意外性は大事だし、かといってあまりにも現実離れしすぎていても、面白くない。

バランスが難しい。

もしかしたら、明日の新聞か今日見るテレビにでも、なにかオチのヒントがあるかもしれない。

とりあえず夕食の仕度をして、TVでも見よう。




昨日は結局、新しいアイディアも浮かぶことはなかった。

まあ、安易に考えついたものでは、オチとしては使えないので、気長に構えることにした。

よくよく考えたら、今回のネタも株価をネタにはしているが、肝心の銘柄が個人名になっているというのを使ってはいない。

しかし、もう書き始めたプロットには、どうもはめ込む要素ではないし、これはこれで別の話で使おうと思う。

1つのネタから2つの話を思いついたのだから、ラッキーといえばラッキーだ。



朝食を終え、新聞を取り出す。

やはり、株価の面を先に見ようか迷ったが、いつも通りTV欄から読むことにする。

私は昔から一面ではなく、TV欄から読む癖がついていた。

いい大人がと笑われそうだが、子供の頃からの習慣が抜けない。

まあ、「三つ子の魂、百まで」とも言うし、特に不自由があるわけでも、誰が見ているわけでもないので、この癖は直らないだろう。

TV欄にざっと目を通し、紙をめくる。

4コマ漫画を見て、記事を読む。

やはり、何となく集中できない。

さっと読んで、紙をめくってから、ふともう一度ページを戻す。

TV欄のちょうど裏側は、昨日の主な事件記事が載るスペースだが、そこと下の広告の間に、いつも小さなスペースだが、昨日亡くなった方の名前が何人か載る。

その名前のところに引っ掛かりを感じて、ページを戻したのだ。

あやうく見逃すところだった。

そこには、

「鈴木善一さん (51)」

と書かれていた。

 

これは面白い。

不謹慎ながら、そう思ってしまった。

偶然だろうか。

しかし、物語にするなら必然性を見つけなければいけない。

ところが、その記事を良く見ると、鈴木氏は企業主ではなかった。

彼は学者で、何やらよくわからないが、医学的に重要な発見をしたらしいことが書かれている。

残念ながら株式の、銘柄とは関係ない、ただの偶然の一致なのだろう。



しかし物語としてはやはり、必然性を出すために、ここに関連性を持たせたほうがいい。

そうしたとして、どんな話が出来るのか。

そんなことを考えながら、株式の面を開く。

しかし、そこに「鈴木善一」という銘柄名はなかった。

じっくり何度も見たが、やはり何処にもない。

どういうことだろう。

やはり、鈴木善一氏と、「鈴木善一」銘柄は関係があるのだろうか。

それにしても、鈴木氏が「鈴木善一」という企業のオーナーなり社長なり大株主だったとしても、彼が亡くなった当日に、いや正確にはこれは昨日の取引だから、なくなった当日に株式取引が停止されるだろうか?

大きく値を下げたりすることはあっても、名前が消えることはないのではないか。

株式にそんなに詳しいわけではないが、やはりそんな事はありえないだろう。



それでも専門家に聞いてみるのが確実であると考え、証券会社に勤める大学時代の友人に、私は電話をしてみた。

卒業以来、取材で度々電話はしていたが、ここ一年ぐらいは連絡を取っていなかった。

それで、久しぶりだの、近いうちに飲みにでもなどと前置きが長くなる。

はやる気をおさえて、一通り礼儀を損なわない程度に挨拶を交わし、本題を切り出した。

「ところで、鈴木善一という銘柄なんだが」

「鈴木なんだって?」

「鈴木ぜんいちか、よしかずか分からん。善意の善に漢数字の一だよ」

「人の名前じゃないか、たしか先日亡くなっただろ」

「知ってたのか?」

証券マンが医学界にも関心を持つとは、勉強熱心なやつだ。

もっとも、世界のあらゆる動きを見ていないと、優秀なトレーダーにはなれないのかもしれない。

「ああ、今朝の新聞に載っていたしな」

「じゃあやっぱり関係があるんだな、鈴木善一と」

「何が?」

「だから、鈴木善一氏と企業の鈴木善一がだよ」

何となく話が噛み合わないな。

「名前を知っていたということは、注目していた銘柄だったってことだろ?」

「銘柄っていったい何のことだ?鈴木氏はたまたま新聞で見ただけだよ。彼の発見が一時期この世界にも影響を与えたのは確かだが。俺もそれで名を覚えていたし。でも、今彼が亡くなったからといって、株価に影響はないよ」

「じゃあ、彼はオーナーでも社長でも大株主でもないんだな?」

「だから何のだよ?」

いい加減、腹を立てているようだ。

ここはこっちが落ち着き、冷静になって訊いてみる。

「だから、鈴木善一という名の企業だよ。その銘柄の方の話をしているんだ。鈴木氏個人ではなくて」

「そんなものは無いよ」

「何だって?」

「だから、彼は単なる学者で、彼の発見した技術を利用する企業はあるが、彼自身が何かの企業を起こした話は聞いたことがない。ましてや株式公開された話も無いよ」

これ以上は何も言えなかった。

もとより、専門家の話を聞くために電話をしたのだ。

その彼が無いと言えば、本当に無いのだろう。

「ああ、そうか。何かの勘違いだったようだ。すまなかった」

そして、私はまた近いうちに飲みに行く約束をして電話を切った。




いったいどういう事だろう。

新聞にのっていた銘柄を知らないトレーダーが悪いのか、トレーダーの知らない銘柄を載せた新聞が間違っているのか。

それとも私の見間違いか。

しかし、メモにはしっかり「鈴木善一」と書いてある。

それよりなにより、昨日、一昨日の新聞を見れば、少なくとも私の見間違いかどうかは分かる話だ。

さっそく新聞入れから2紙を取り出し、昨日の新聞の株式面を見る。

予想通りというか、何というか、「鈴木善一」の「鈴」の字はいっぱい見かけられたが、「鈴木善一」は何処にも見つからなかった。

一昨日の紙面も同様だった。

どういうことだ?

メモにはしっかり書いてある。

もう一度今日の新聞を見ると、死亡欄にも鈴木善一氏の名は書いてある。

あれは見間違いではない。

では何故今は見えなくなってしまったのか。

いや、そもそも「鈴木善一」という企業は存在しないのに、何故株価の銘柄に彼の名前が見えたのか。



その日は結局、一日中その事を考え続けて、新聞も読みかけになったし、仕事にも手がつかなかった。

TVだけ耳にも目にも頭の中にも入らなかったが、癖でスイッチを点けてしまい、1時にスイッチを切って寝た。





翌日はいつもより早く目が覚めた。

といっても7時少し前ぐらいだったが、ここ数ヶ月はなかったことだ。

すぐに新聞受けを覗き、朝刊を取り出す。

今日はとにかく、最初に株価の面を見ようと思う。

まだ朝食の仕度すらしていないが、そんな事はどうでもいい。

それに気になって料理どころじゃなく、危なくてしょうがない。

テーブルにつき、株式の面を開く。

昨日まであった場所に鈴木氏の名前はなく、他の場所にも見当たらなかった。

しかし新しく、

「増村翔太  1,098」

という見たことのない銘柄があった。

これはそうなのか?

鈴木氏と同じものなのか?

さっそく昨日の友人に電話をかけようかと思ったが、時間が時間だし、昨日おかしな事を聞いたばかりで気が引ける。

それよりなにより、電話をかけるのを思いとどまったのは、自分の書いた小説の事が頭に浮かんだからだ。

これは私に突如備わった、特殊な能力かもしれない。

小説の中のトレーダーが考えたように(まあ、それ即ち私の考えなのだが)、誰かに話をしたら、その能力が消えてしまうかもしれない。

実際、昨日電話をした後に新聞を確かめたら、名前が消えていたではないか。

どうやら能力自体が失われたわけではないみたいだが、うかつな事はしないに限る。

この能力が小説のトレーダーの様に、何かの役に立つのかはまだわからない。

というより、まだこの能力の意味さえ分かっていないのだ。

それだけに、今役に立たないからといって、能力を失くしてしまっては、すごく後味の悪い思いをするに違いない。

気になってしょうがなくなるだろう。

せめて、この能力の正体を見抜くまでは、しばらく様子を伺う事にしよう。

そう考えて私は、新しい名前とその値をメモに残し、今日はゆっくり落ち着いて、その他の記事も読んだ。




トレーダーはその後も順調に資金を増やし続け、資産と呼べる所まで財を成した。

勤めていた会社も辞めた。

今は自宅で、朝に新聞を見て一日の売買を決め、取り引きが始まると同時に全ての売買を済ませる。

もちろん終値がわかっているのだから、値の動きを見て、もう少し考えて売買してもいい。

始めのうちは彼もそう考えて取り引きしていた。

が結局、前回の終値と当日の終値で売買を考えた方が確実なので、最近はずっとそうしている。

そしていつからか、終わりの値を確認することもやめた。

それまで新聞の値が外れることは、1銘柄も、1円としてなかった。

しかし、彼はかなりの金を稼ぎながらも、住居を変えることも出来ずに、付き合っている彼女と結婚するのも踏ん切りがつかなかった。

住むところを変えるのはもちろん、何か自分のライフスタイルを変えることで、自分の能力を失うのではないかと考えると、なかなか贅沢も出来なかった。

それでも少しずつ慎重に試していき、会社を辞め、昼間から遊びほうけるところまでは来たのだった。

しかし、やはりもっと自由が欲しいと彼は考えた。

お金は好きなだけ入ってくるが、贅沢が出来ない。

何より、今でもそんなに悪いところではないが、今の自分の財力に見合った所に住みたいと彼は思う。

(自分も案外見栄っ張りなんだな)

と新しい自分発見に喜んでいる場合じゃない。

見栄だろうがなんだろうが、持つものを持っていたら、それを使いたくなるのは当然の話だ。

何のために稼いでいるのか分からなくなる。

恋人にも、

「いつも外で会うのね。本当は家に奥さんいるんじゃないの?朝には必ず帰るし」

そう言われても、彼女を家に入れてうっかり新聞を見られたら、やっぱり能力が無くなるのではと考えてしまう。

ものすごいジレンマを感じて、だんだん彼にはストレスが溜まってきた。

しかし、それでも失うにはあまりにも惜しい力なのだ。

結婚自体は影響がないかもしれない。

新聞も彼女に見せないようにすればいい。

しかし、あの部屋では新婚の新居、しかも見栄を張って彼女に見せつけた(いや実際はもっと持っているのだが)財力からしたら、あまりに情けない部屋だ。

かといって部屋を移る、そのことだけはどうしても出来ない。

彼はあれから、他の新聞や同じ新聞社の別の紙を見たが、やはり株価は普通の値が書いてあった。

(つまり、あれは俺についている能力じゃなくて、この部屋に送られてくる新聞が特別だということだ)

つまり部屋を変えれば能力が失われる、と彼が考えるのは当然だろう。

(しかし、これでは何のために……)

考えはどうどう巡りを繰り返すだけだった。



自分はまだ気楽だなと思う。

小説の中のトレーダーは、下手にすごい能力を身につけたおかげで、どうにも抜け出せないジレンマに陥っている。

私の能力は、正体がわからないが、どうも彼ほどお金を稼げるものではないようだ。

株式の面に載ってはいるが、企業とは関係ないようだし、正体がわかっても、せいぜい一回分の小説の種になるぐらいだろう。

しかし、それにしても気にはなる。

気にはなるが、今はまだ、このトレーダーの話を書き上げる方が大切だろう。

問題はオチをどうつけるかだ。

そこらへんのアイディアを、何とかして見つけないとどうにもならない。

とりあえず、5時をまわったので、夕食の仕度をしながら、夕方のニュースを見ることにする。




番組は既に始まっていた。

代議士が収賄で捕まったニュースを聞きながら、冷蔵庫を覗き込む。

今日は少し凝ったものを作るか。

昨日はぼんやりしすぎて、何を食ったのかも覚えていない。

新しいニュースに切り替わる。

「続いて、水による事故のニュースです」

この時期になると必ず起こる、悲しい事故だ。

「今日の午後、家族連れで賑わう○○海水浴場で、今年3歳になったばかりの増村翔太ちゃんが、波にさらわれ、溺れたところを救助隊に助けられました。しかし、意識不明のまま病院に運ばれた翔太ちゃんは、懸命の救命処置にも関わらず、つい先ほど亡くなりました」



背中に電気が走った。

冷蔵庫の扉も開けっ放しで、新聞に飛びつく。

株式の面を開く。

そこには翔太ちゃんの名前はなかった。




さすがに冷蔵庫のドアは閉めたが、それ以上は何をする気も起きず、ビールと新聞を持ってリビングのソファーに腰を下ろす。

ビールを飲みながら考える。

この株価に書かれる名前の意味は何となくわかった。

つまり、ここに公開(と言っても見ることが出来るのは、私だけらしいが)されると、その日か数日後かはわからないが、死ぬということだ。

問題は何故そんなものが私に見えるのか、何故この2人だけなのか。

新聞を見れば、いや見なくとも載っていないだけで、多くの人が毎日亡くなっている。

その中で、何故この2人が、いや正確には何故1人ずつ名前が載るのか。

そこに意味はあるのか。

そして、それを私が知ったとして、どうしろというのか。

翔太ちゃんの場合は事故だったし、もし既にこの新聞の意味を知っていたら、事前に止めることが出来たかもしれない。

しかし、私だけ知りえるのだとしたら、それは不可能に近い。

翔太ちゃんは知り合いでもなんでもないし、たとえ知っていたとしても、どのような注意が出来たのだろうか。

死因なんかは書いていないのだ。

死因といえば、鈴木氏の方は脳溢血だという。

そんなことを事前に知っていたからといって、何になるのだ。

いや待て、そもそもこれは本当に現実に起こったことなのか?

小説のアイディアを考えながら、いつも新聞を眺めるあまり、少しノイローゼ気味になっているんじゃないか。

あのメモも、後から書いたものを見て、その場で書いたと思い込んでしまっているのじゃないか。

いや、違う。

あれは確かに新聞を見て書いた。

私はノイローゼではないとは言い切れないが、私に起こった出来事は事実だ。

しかし、じゃあどんな意味があるというのだ。

私はあのトレーダーと同じようなジレンマに陥りそうになっていた。




翌朝は、ソファーで目が覚めた。

少し飲みすぎたようだ。

頭がいたい。

結局何も食べなかったし。

どうもあの株価の面を見てから、生活のリズムが狂いだしてきた。

よくよく考えたら、あの記事に意味を持たせようとするのがいけないのだ。

確かに、死ぬとわかっていながら何も出来ないことには、罪悪感を感じる。

しかし、世の中はどうしようもない死に溢れている。

今さら偽善者ぶって感傷に浸っていても仕方のないことだ。

ここは割り切って、このネタを元に、小説を一本書いてみよう。

それがせめてものはなむけになる。

そう自分勝手に考え、また今朝も新聞を取り出す。

一枚めくると、翔太ちゃんの事故の記事が載っていた。

やはり少し心が痛む。

仕方のないことと割り切るには、少し時間がかかりそうだ。

今日も順番にゆっくり時間をかけ、一つ一つ記事や広告を読んでいく。

そして、株式の面にたどりつく。

ため息を一つついて、紙をめくる。

そして、さっと目を通す。

「中山良子  8,124」

やはり見つけてしまった。

はあっ、とさっきより深いため息をもう一つつく。

いったい何なんだ。

私にどうしろというんだ。

いかん、いかん、また昨日の夜の繰り返しになる。

私には関係がない。

と考えつつ、やはり癖でメモしてしまう。

それにしても、この子も若いのに可哀相な話だ。

どうやって死ぬのだろう。

病気だろうか、事故だろうか。

事故なら避けることが出来るのじゃないか。

考えないで措こうとするが、やはり考えてしまう。

「中山良子」か。

もちろん知った名前ではない。

どうやって調べよう。

電話帳か。

しかし最近、個人情報の公開は命取りになるため、載せる人が少なくなっている。

しかも、彼女が載せているとしたら、世帯主ということで、一人暮らしかシングルマザーの女性ということになるし、そんな子が載せるとは到底思えない。

案の定、名前は見つからなかった。

ふと思いついて、パソコンの前に座る。

インターネットのHPや、ブログから名前を見つけることができるかもしれない。

さっそくパソコンを起動し、インターネットブラウザを開くと、そのまま検索サイトにつながった。

「中山良子」という名前を打ち込む。

HIT数126件。

一つ一つ見てみるが、どれも記事の中の一文にある名前で、そこから個人に連絡を取ることはできない。

検索語を「NakayamaRyouko」とローマ字表記にして再検索してみる。

20件HITする。

20件の内15件はさっきと重複するものであった。

残り5件の内、記事の一文を除くと、3件のHPが見つかる。

一つ一つ見ていく。

HPの中に漢字表記で名前が書かれている。

その中で「中山良子」と一致するのは、1件だけだった。

苗字と名前が、離れた場所にそれぞれ書かれていたため、さっきはHITしなかったのだろう。

ともかく、この1件のHPの主が「中山良子」であることは、間違いない。

しかし、それがこの新聞の「中山良子」と同一人物かどうかはわからない。

とりあえず、プロフィールを見てみる。

「NakayamaRyouko 22歳 おひつじ座」

やはり若い。

可哀相に。

今ならまだ間に合うかもしれない。

本当に彼女なのか?

と思っていると、気付いたことがある。

どうして私はさっき、彼女を若いと思ったのだろうか。

実際、このHPの「中山良子」は若い。

しかし、あの新聞を見て、どうして私は若いと感じたのか。

知らない人に対して失礼だが、良子という名前は決していまどきの名前というわけではない。

名前のイメージからそう思ったわけではない。

そうなると株価だ。

「鈴木善一 18,968」の鈴木氏は51歳だった。

3歳の翔太ちゃんは千円そこそこだった。

その前例があったから、8,124円の値がついた「中山良子」を直感的に若いと感じたのだろう。

しかし、いったい誰がつけたのか知らないが、不快な表現だ。

人に値段をつけるなんて、しかも歳を重ねた方が値段が高い。

いや、鈴木氏の功績によるものかもしれないが、どのみち命の価値はみな一緒のはずだ。

いくら幼いとはいえ、翔太ちゃんの値段が千円なんて。

彼の親が聞いたら怒り狂うだろう。



しかし、この数字の単位を自分は勝手に円と考えたが、本当にそうなのだろうか。

確かに、この名前以外の銘柄の、横に書かれた数字の単位は全て円だ。

しかし、そもそもこれらの名前は企業とも株ともまったく関係がないのだ。

ということは、その単位も円とは限らないのではないか。

そうなると何だろう。

再びパソコンの画面に目を落とす。

「22歳 おひつじ座」

まてよ。

ふと思い立ち、パソコンの画面に電卓を起動させる。

そして思いついた数字を打ち込む。

「365×22=8,030」

ふむ。

プロフィールの誕生日を確認する。

「19××年4月××日」

そうすると、「8,030+」今日が7月××日だから、ええっと4月と6月は30日まで。

そうすると、指折り数えて出した日数を足してみると、出た答えは、

「8,120」

おしいな。

いい考えだと思ったのだが。

そうだ、うるう年を忘れていた。

オリンピックの年がそうだから、いくつだ?

4回あったのか。

そうだ4を足すと、

「8,124」

ぴったりだ。

やはり、間違っていなかった。

これは、この数字は「円」じゃない。

単位は「日」だったのだ。

生まれてからの日数がこの数字の意味だったのだ。

念のために昨日の新聞を見て、鈴木氏の誕生日を元に計算してみる。

やはりピッタリだ。

もう間違いない。

翔太ちゃんも、昨日のニュースで確かキャスターは、3歳になったばかりと言っていた。

「365×3」は「1,095」

「1,098」という新聞の数字からすると、3日前が誕生日だったのだろう。

つまり、それはこのHPの「中山良子」が、この新聞の「中山良子」と同一人物ということであり、彼女の死期が迫っているということである。



どうすればいい?

そもそもどういう死に方をするのだろう。

彼女のHPを見る限り、闘病日記という感じではなく、病死ではなさそうだ。

むしろ、アウトドア好きの活発な様子が見られる。

アウトドア。

やっぱり事故か。

水の事故か、キャンプ地で何か起きるか。

とにかく、HPの一番最後で、メールを送れるようになっていたので、そこをクリックしてみる。

しかし、何と書いたらいいのだろう。

さんざん考えたあげく、こう書いた。

「中山良子さんへ。

突然こんなメールを送ってしまって、とても不快に思うかもしれませんが、どうか落ち着いて話を聞いてください。

ここ数日のうちに、あなたの命に関わる出来事が起こります。

HPを見た限り、あなたは健康そうなので、おそらく事故か何かでしょう。

もし、何か旅行などの予定があったら、キャンセルした方がいいかもしれません。

それに車や乗り物等も危険です。

もしできるなら、しばらくは自宅にいたほうがいいかと思います。

学生のようですので、今は夏休みですよね。

これは決して脅迫などではなく、私は心からあなたの身を心配するものです。

気味が悪いと思うかもしれませんが、どうか気をつけてください」

これを見て、彼女がどう思うか。

イタズラと思うだろう。

気味が悪いと思うかもしれない。

当然だろう。

でも、それで少しでも警戒してくれたら助かるかもしれない。

しかし、いつまで警戒していればいいのだろう。

鈴木氏の例もあるように、いつ死ぬかは分からないのだ。

彼女はそれまで、怯えて暮らすことになる。

メールが来た。

中山さんからだ。

メールを開くと、

「気持ち悪いことすんな、アホ!」

とあった。

よかった。

とにかく、読んでくれた。

まったく自己満足でやっていることだなと気付いた。



今日はもう仕事をする気は起きない。

ちょうど見たいビデオが溜まってきたことだし、食事は出前でもとって一日のんびりするか。

まだ昼にもなっていなかったが、既に自堕落モードに堕ちていった。

しかし、これが本来の私の姿なのだ。

今日一日だけ。

明日からはまた、気を取り直して頑張ろう。

とりあえず、ビールを出すために冷蔵庫を開けた。




翌日の朝は、新聞が読めなかった。

警察が任意出頭を求めて、朝6時に私の家にやってきたからだ。

どうやら中山良子が死んだらしい。

初めてパトカーに乗って、警察署に向かう。

車は高速に乗った。

そういえば、パトカーにはK県警と書いてあった。

中山良子がK県に住んでいたのか、それともK県に遊びにいったのか、とにかくK県で殺されたのだろう。

自分が呼ばれたということは、おそらく殺人の疑いがある死に方だったのだ。

そして、彼女の自宅のパソコンを調べて、私とのメールのやり取りを見たのだろう。

あれを見られては、言い逃れできない。

おとなしくついて行くしかなかった。

署に着き、簡単に事件についてと、何故私が呼ばれたのか説明を受ける。

メールのやり取りをしたことを確認され、素直に答えた。

昨日の行動を聞かれ、一日中家にいたと正直に言う。

しかし、K県とは。

これがもっと離れた場所だったら良かったのだが、K県では私の家から普通に行き来できる。

十分犯行可能な距離なのだ。

しかもアリバイもない。

どうやら刑事の話によると、中山さんはやはりK県に住んでおり、自宅で殺されたらしい。

その日中山さんは、友人らと一緒に旅行にいくはずだった。

しかし、急に中山さんが体調不良を理由にキャンセルしてきた。

その友人達は旅行帰りの夜に、せめて良子さんの部屋で飲もうと誘いの電話をかける。

良子さんがOKしたので、彼女の部屋に行ったところ、首を絞められて殺されていた良子さんを発見したという。

電話をしたのが夕方の5時頃で、部屋に着いたのが7時という友人らの証言から、犯行時刻はその間と警察は考える。

死亡推定時刻も6時半だという。

そして、パソコンのメールのやり取りを見た警察は、犯人が良子さんを自宅に閉じ込めて、狙いやすくすることを意図してメールを送ったと推測する。

つまりそれが私であると。

しかし、死亡推定時刻を聞いてほっとする。

私は6時に夕食の出前を受け取っている。

いくらなんでも6時半にK県のどこかは知らないが、どこだったとしても、その良子さんの部屋にたどり着くのは不可能だ。

刑事さんにその事を話すと、急に顔色が変わるのが分かった。

早速、部下らしい若い刑事に指示を出す。

そしてしばらくすると、その刑事が戻ってきて、上司の刑事の耳元で何事か囁く。

案の定私は解放され、来たときとは違う覆面パトカー、しかもかなりの高級車に乗って帰った。

まあ、いい経験をさせてもらった。

これもメシの種になると思えば、むしろラッキー、いやラッキーではないか。



自宅に着いたのは、昼を少し回ったところだった。

それにしても、今回ばかりは自堕落が命拾いになった。

感謝の気持ちをこめて、昨日の夕食を頼んだ中華料理店にまた出前の電話をかける。

出前を待つ間、新聞を広げる。

中山さんの記事を読む。

結局、彼女を救うことは出来なかった。

いったいどうすれば良かったのか。

今回は偶然、中山さんを見つけ出すことが出来た。

しかし、彼女を助けるどころか、かえってそのせいで犯人扱いまでされてしまった。

いつも、新聞に書かれた人物を特定できるとも限らないだろう。

出来たとしても、助けようが無い。

それでも株価の面を開く。

やはり中山さんの名前はなく、代わりに、

「重田三郎  21,881」

とあった。

かなり高齢だな。

そう思っただけで、もうメモも書かない。

何のために、自分だけにこんな能力が身についてしまったのか知らないが、もう考えるのはよそう。

昨日考えたように、このネタで作品を一本書いて、それでおしまいだ。

その前に、トレーダーの話の続きを書かなくては。

オチをどうするか。

そう考えながら、新聞の他の記事を読み始める。

電話が鳴る。

「もしもし、笠家です」

出ると証券マンの友人だ。

「どうした?飲みに行くのは来週だよな?」

私がそう聞くと、友人は少し興奮気味に、

「いや、今朝の新聞を見たら、面白いものを見つけてな」

「なんだい?」

わざわざ電話してくるのだ、よっぽどのことだろう。

また、小説の種になるかもしれない。

「ほら、お前もこの前、鈴木善一がどうとか言っていたろ」

まさかね。

「ああ、それで?」

「今朝たまたま俺も、毎朝新聞の株価の面を見る機会があってね。いつもは日経しか読まないのだが」

毎朝は私のとっているのと同じ新聞だ。

「それで、面白い銘柄を見つけたんだよ。何だと思う?」

「まさか、また個人名だったとか?」

「そうなんだよ。しかもその名前が「笠家 門人」だってさ。お前の値は12,380円だったぜ」




それから、彼が何を言ったかは覚えていないが、とにかく電話を切った。

どうやら私だけの能力じゃなかったらしい。

これからどうすればいいのだろう。

とりあえず、外出は避けたほうがいいだろう。

戸締りもきちんとして、突然の訪問者にも気をつけよう。

ああ、書きかけの小説。

あれのオチは、

(以下原稿なし)






END


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【2006/04/28 01:00】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(2) |
<<中書き、中込、中目黒。 | ホーム | 今日の「北の国から」を思い起こす歌>>
コメント
早速読ませていただきました!

最後のオチはよめちゃったけど、
おもしろかったです。
星新一みたいですね。

主人公の死因について、想像させられました。
きっと健康的な生活が乱れていって
脳腫瘍でも出来たのかな、とか。
【2006/05/08 23:25】 URL | Neutron #-[ 編集]
Neutronさんへ
ありがとうございます!

星新一さん」は好きな作家の一人で、ショートショートに関しては、かなり影響を受けています。

話が終わっているようで終わっていない感じ、でも続きは書かないよ、自分で想像してねみたいな感じを常にだそうと思っています。

よかったら他の作品も読んでいただいて、コメントくれたらうれしいです。

【2006/05/09 00:05】 URL | けん@neo #-[ 編集]
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名古屋生まれの、名古屋育ち、だが現在は関東在住。
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